大企業もスタートアップも。広報・PR担当者が共感を生み出すために大切なことは、「好奇心」と「想像力」〜サイトロニクス株式会社 広報・PR担当/ワークショップデザイナー 竹中花梨さん〜

企業の広報・PR担当として、成果を出すためにどんな工夫をしたら良いのかと模索している方は多いのではないでしょうか。


大企業での社内広報や、スタートアップでのひとり広報、大企業の若手有志コミュニティONE JAPANの広報など、さまざまな立場で広報・PRの経験を積まれている竹中花梨さん。2021年に会社員を退職し、フリーランスとしての活動を準備されています。


今回はそんな竹中さんに、PRライターのMariが、どんな企業規模の広報・PRでも大事にすべき人脈づくりや発信のコツをお伺いしました。

会社の状況を客観的に把握するためにも、社内外のつながりを増やそう

───これまで広報・PR担当として、どのような仕事をされてきたのでしょうか。

竹中花梨(以下、竹中):私は新卒で株式会社東芝(以下、東芝)へ入社し、事業所の総務を経験したあと、コーポレートのインターナルコミュニケーション(社内広報)担当として2021年11月末まで勤務していました。おもに社内報やオウンドメディアの企画・制作に携わっていました。

また、2021年8月からは複業(副業)として、2021年5月に東芝からカーブアウトしたバイオ系スタートアップのサイトロニクス株式会社(以下、サイトロニクス )で、立ち上げ当初から広報・PRやコミュニケーション全般を任せていただいています。いわゆる「ひとり広報」ですね。


───東芝のように社内関係者の多い大企業で、広報・PRに必要な情報収集はどのように工夫していたのでしょうか。

竹中:まさに、社内の情報収集は広報・PR担当者さんが苦労されることの1つだと思います。私がいた部署では、社内の広報責任者が集まる会議で情報収集したり、アンケートなどで情報提供を受けたりすることが多かったです。私は有志活動に参加してさまざまな部門の方とのつながりがあったので、日ごろの会話から新しい情報や企画のアイデアを取り入れることもありました。


特に有志団体は、私にとって大きな存在でしたね。

私が参加していた有志団体は2つあります。1つは東芝の有志団体「OPEN ROOTS」。東芝をより良くしようという有志メンバーが集まっていて、最後は代表も務めさせていただきました。

もう1つは「ONE JAPAN」という、約50社の大企業の若手・中堅社員を中心とした有志団体のコミュニティ。私はONE JAPANの広報を担当していたこともあります。


こうした有志活動に参画することで、自分が勤めている会社や関わっている業務の枠を超えた発想や刺激が得られたのは、楽しかったですし、とてもありがたかったです。

広報・PR担当は、会社が今どんな状況にあって、これから何を目指しているのか、社会との関係性はどうなっているのかを、客観的に捉えることが欠かせません。だからこそ、社内でいろんな部署の方と関わるきっかけをつくることや、社外の方とつながることも大切なんです。


───大企業での経験と並行して、スタートアップの広報・PRに携わっていますが、違いを感じることはありますか。

竹中:会社の歴史や規模があまりにも違うので、広報・PRの業務もまったく異なりますね。東芝は社会的な認知度が高いです。ただ、私が広報へ異動したのは不正会計問題が起きたあとで、社内のモチベーションを上げて、東芝を再生していかなければいけないという状況で……。これまで懸命に働いてきた社員や新しい技術、取り組みにスポットライトを当てるなど、東芝の新たなイメージを社内外に浸透させることに注力していました。


一方、スタートアップのサイトロニクスは創業間もない会社で、再生医療をテーマにしています。まずは会社を知ってもらうこと、さらには再生医療業界を盛り上げていくことを目指しています。これから社員を増やそうとしている段階なので、採用広報の優先順位も高いです。TwitterやビジネスSNS「Wantedly」の運用や、noteでの記事コンテンツ発信なども力を入れようとしているところです。


大企業とスタートアップのどちらも経験しているからこそ強く感じるのは、広報・PRは「会社の規模、フェーズ、事業戦略、目標、想定しているお客さま、時代の流れなどをしっかり分析したうえで、誰に何を伝えるかを明確にする」のがポイントだということ。

そのため、私はスタートアップのひとり広報として、会社の状況や業界のトレンドなど広くアンテナを立てることを意識していますね。CEOと直接話をして情報をアップデートしながら、広報・PRの施策と優先順位を決めています。

PRパーソンとしての介在価値を発揮する秘訣は、「伝えたい」と思う熱量

───ひとり広報というと大変そうなイメージなのですが、ひとり広報だからこその面白さは何でしょうか。

竹中:スタートアップは大企業に比べて知名度が低いので、会社自体や事業・サービスの認知拡大が広報・PR担当のミッションになることが多いのではないかと思います。私自身、そこに1番難しさを感じていて。でも、自分でゼロから開拓していくのは貴重な経験で面白いですし、自分の成長が会社の成長につながると感じられるのが、やりがいになっています。


大企業の広報・PRは業務が細分化されていることが多い一方で、スタートアップの場合、広報・PRという役割だけでなく、私の場合はコーポレートコミュニケーションという肩書きで、社内外のコミュニケーション業務に幅広く携わることができています。


サイトロニクスは、コロナ禍の創業で直接会ったことがないメンバーも多く、メンバー同士の親交を深めるために定期的にオンラインやオンライン・オフラインのハイブリッド形式でMeetupイベントを開催したりしています。大企業の仕事だけでなく有志活動での経験もスタートアップで活かせていると感じますね。


広報・PR担当としての経験の幅を広げたいという方は、複業(副業)やひとり広報にチャレンジするという選択肢を考えてみても良いかもしれないですね。


───大企業もスタートアップも経験している花梨さんが考える、広報・PRの仕事で大切なことは何でしょうか。

竹中:好奇心と想像力ですね。広報・PRの仕事は、何よりもまず自分自身が「伝えたい!」という気持ちを持つことが大事だと思っています。「好奇心」があると、自分に馴染みのない分野やものでも興味を持てますし、新しく知ったことを他の人にも伝えたいって感じやすいですよね。


ただ、そのときに「想像力」を合わせ持つことも重要です。社内でも社外でも、発信するときに受け手がどう感じるか、わかりやすい内容になっているかという配慮がないと、伝わらないんですよね。

たとえば、私が東芝で広報誌を作成していたときに、初めてその情報を知る人にとって、わかりにくい表現になっていると指摘を受けたことがありました。自分が担当しているテーマは自然と他の人より詳しくなってしまうので、気づかないうちに「自分には、わかりやすい記事」になってしまっていたんです。


この経験から、「何も知らない人がこの文章を読んだらどう思うか?」「立場が違う人から見たらどう見えるのか?」といった想像力を働かせることを意識するようにしています。


───伝わりやすい文章にするために、工夫していることはありますか。

竹中:そもそも「伝わる」というのは、人に伝えたら終わりではなく、人の心を動かしてこそ伝わったことになるのだと思っています。

さらに「心を動かす」というのは、単に「感動させる」とも違っていて。人が文章を読んで心が動くのは、感動だけでなく、驚き、悲しみ、喜び、共感などいろいろありますよね。そのときに大切なのは、無機的な文字を通して有機的な“体温”や“色”が伝わること。

そのために、まず自分の心がどう動いたかという感覚も大事なんです。自分の気持ちが動かされてこそ「みんなにも伝えたい!」という使命感や熱意が出てくると思います。


デジタル化や自動化などが進むなかで、広報・PRは「人が介在してこそ価値が生まれる」という要素が大きいのではないでしょうか。私自身、自分が介在する意味を意識していますし、そこに広報・PRとしてのやりがいや存在意義を感じています。

広報・PRの専門知識以外にも視野を広げると、キャリアのチャンスが広がる

───これまでの広報・PR業務において、成功事例として印象に残っていることはありますか。

竹中:直近で1番印象に残っているのは、社内SNSを活用したことです。2021年に新しく社内SNSを導入することになったものの、そもそもSNSに慣れていない人も多く、はじめは広報担当者だけが情報発信する状況が続いていました。


あるとき、閉鎖される事業所を社内報で取り上げることがあり、その取材時に撮影した動画を社内SNSで投稿して「事業所での思い出をぜひコメントしてください」と呼びかけたところ、たくさんのコメントや反応があって。

紙の社内報には写真と文章しか載せられませんが、社内SNSでは動画を活用するなど、複数の発信ツールを組み合わせることで興味を引くことができ、反響があったのだと思います。


広報・PRのツールは多種多様で、複数のメディアを組み合わせるメディアミックスの手法もいろいろありますが、世の中のトレンドや、社内の反応を観察しながら、発信する情報の種類や相手に合わせて最適なやり方を模索していくことが大切なのではないでしょうか。


───これまで広報・PRのさまざまな業務を経験されていますが、広報・PRのキャリアを発展させていくポイントはありますか。

竹中:今の業務内容にとらわれず、スキルをかけ合わせて取り組んでいくことで幅が広がっていくと考えています。特に、広報・PRはどんな業界でも必要ですし、社内のさまざまな部門と関わりが持てるので、ほかのスキルや経験との相乗効果が生まれやすいと感じています。


私の場合、複業(副業)という形でスタートアップの広報・PRに携わるようになり、東芝を退職したあとも、複業(副業)の仕事は継続中です。今はウェブデザインの勉強や韓国留学の準備もしています。


一見、広報・PRとは関係ないように思える経験やスキルも、のちにつながって自分の強みになるかもしれないと私は考えています。自分が気になることや好きなことは、積極的に情報収集したり、学んでみたりするのが良いと思いますよ。


───広報・PR担当になったばかりの方や、これからなりたいという方に向けてアドバイスお願いします。

竹中:私自身も未経験からのスタートでした。もちろん、PR施策のプランニングや、実際に記事や動画などコンテンツ制作をすること自体は、知識や経験も必要になってきます。

でも、初心者からでも、熱意と行動次第でどんどん成長ができると思っています。特に最近は、SNSなどオンラインで気軽に人とつながれるので、他社の広報・PR担当者さんと横のつながりを積極的につくっていくのがおすすめです。


これから広報・PRに携わりたいという方であれば「広報・PRって、実際どんな仕事しているの?」と、実際に経験者に聞いてみるのが近道だと思います。

あるいは、すでに広報・PRに携わっている方であれば「何から取り組めばいいのか」という悩みを、広報・PR担当者同士のコミュニティで相談してみることもできるかもしれません。


同じ悩みや疑問を持っている人は意外と多いので、ぜひ怖がらずに勉強会や情報交換の場に飛びこんでみてくださいね。


取材を終えて

大手企業の広報・PR担当とスタートアップでのひとり広報という両方の経験をしてきた花梨さんだからこその、企業のステータスに応じた仕事の面白さや難しさをお聞きすることができて、あらためて相手に「伝える」ことの意図をくむ大切さを感じました。

好きとの掛け合わせで、今後仕事を広げられていくという花梨さんの考え方に、私自身もどんな付加価値が生みだせるのかを考えるきっかけとなりました。


(執筆:PRライター Mari / 編集:山崎春奈)