メディアから取材がたえない理由とは?PRをつうじて郷土料理を食文化として育て、全国へ広める~百年床・宇佐美商店店長 宇佐美雄介さん~

キー局や雑誌など多数のメディアにとりあげられ、全国からお取り寄せグルメとしても人気の宇佐美商店さんの「ぬか炊き」。親子三代にわたって受け継がれてきたぬか床は「百年床」として登録商標され長く愛されています。

今回お話をお伺いしたのは、宇佐美商店を継ぐために首都圏から地方へ移住し、PRを0からスタートさせた宇佐美さんです。


北九州の台所と呼ばれる旦過市場にある商店から、郷土料理であるぬか炊きを北九州の食文化として育てたいという想いを発信しつづけている、百年床・宇佐美商店店長の宇佐美雄介さんに、PRライターのRina Takumaが伺いました。


自分や商品が持つ話題性を、わかりやすく発信する

───取材を受けたり、メディアに多く出るようになったきっかけはなんだったのでしょうか?

宇佐美雄介(以下、宇佐美):最初は、私が「地方への移住者・若手」であることが、お店の取材につながりました。取材を意識して行動したわけではないのですが、私個人が持つ話題性が喜ばれた結果、といえます。


お店を継ぐ前は、東京のIT系の企業で会社員として働いており、まったく違う分野で0からのスタートでした。わからないことも多かったので、北九州市が主催する移住セミナーに行ったのですが、担当の方に「地元の商店街に新しい風が吹く!」と喜ばれ、つながりをつくることができたんです。

その結果、市に「おもしろい場所や人を探している」という取材依頼がきた際には、必ず私を紹介してくれるようになりました。最近では、北九州市をPRするための取材にも声がかかります。


自分やお店、商品などが持つ魅力、話題性は何かを考え、それが喜ばれる場や人と出会うことが、効果的なPRに結びつくのではないでしょうか。


───取材を依頼されるためにしていることや、取材を受ける際に心がけていることはありますか?

宇佐美:商品に関するわかりやすいメッセージを必ず伝えています。

私は「博多といえば明太子、北九州といえばぬか炊き」と言っているのですが、「ぬか炊きをもっと広め、食文化として育てたい」という想いをこめています。メディアの方にも、情報をつうじて世の中によい影響を与えたいという想いがあるので、親和性が高いと感じます。


また、プレスリリースを書く際は「初」や「No.1」など、社会情勢や時流にあう言葉を入れニュースとしての価値を高める意識をしています。2020年9月に商店街の有志で集まりネットショップを立ち上げた際は、「新型コロナウイルスで外出を控えたいときも、非対面で買い物ができる」という内容を入れました。


地方新聞に掲載された記事を見たキー局の方から連絡があり、取材していただいたこともあります。ある取材が別の取材につながるのはよくあることだそうです。


時代に合わせた工夫や差別化で、伝統に新たな魅力をプラス

───伝統ある商品や文化を、より多くの人に知ってもらうために必要なことは何でしょうか?

宇佐美:伝統は守りながらも、お客さまの声を取り入れることや、オリジナリティを加えていくことです。


ぬか炊きは、常温保存ができず日持ちしない、地味に見えるためお土産に持って行きたいが難しい、という声がありました。そこで開発したのが業界初の缶詰です。レトルトやフレークはほかの会社がやっていたのでインパクトが弱いと思い、「業界初」をと考えました。サバ缶ブームがあり、注目度も高かったのもきっかけのひとつですね。

地味な印象を変えるため、パッケージにもこだわりました。北九州の名物であることを印象づけるため、ネットショップやSNSで使用する写真は小倉城を背景に撮影。百貨店で取り扱っていただく際には、一般的なイメージである家庭用ではなく、お土産にも最適な常温で長期間もつ贈答用であることのよさをお伝えしていました。


───お店に来たことがない方に向けて、どのようなことに取り組んでいますか。

宇佐美:従来の「お店にいてお客さまを待つ」という意識を変えて、旦過市場に来る予定がないお客さまにも、まずはぬか炊きについて知ってもらうことを目指し行動しています。


具体的には、SNSやネットショップを立ち上げ、フードフェスに積極的に参加しました。また、飲食店の店長や、知人の管理栄養士の方にぬか炊きを使ったアレンジレシピの考案を頼み、そのレシピを体験できるイベントを企画しています。ほかの方のアイデアを取り入れることで、スペアリブのぬか炊きのような、お店で出す新しい看板商品もうまれました。


ぬか炊きに郷土料理としての親しみを持っていただきながら、新たなおいしさや発想も伝えることができ、従来のお客さまにも、これまでぬか炊きを知らなかった方にも喜んでいただけています。


共感をうむSNSの発信をつづけることで情報が広がり、新たなお客様も増える

───SNSで発信する際は、どのような工夫をするのがよいでしょうか?

宇佐美:割引やお得になる特典をつけて、お客さまに情報のシェアをお願いすることで、新しいお客さまが増えてきています。


新型コロナウイルスの影響でお客さまの来店が減った時期は、店舗の売上が6割ぐらいまで落ちたんです。そこでネットショップに力を入れようと考え、3割引キャンペーンを実施しました。同時にSNSでも、店舗が大変であることを正直に伝え、送料はお店で負担するので情報をシェアしていただけないか、という内容を発信したのですが、予想以上にシェアが多くてネット販売で売上の補填ができたんです。


知人の中には写真やイベントの雰囲気など、ご自身で内容を工夫し投稿してくれる方もいます。共通の知人が多い方からはタイムラインがぬか炊きでいっぱいになったという声もありましたが、それがまた印象に残ったようでとても嬉しいです。


───これからPRを始める方に向けてアドバイスをお願いします。

宇佐美:SNSの継続的な発信やプレスリリースを書くことやイベント企画など、自分のがんばり次第で限られた予算内でもできることが沢山あります。

失敗してもいいので何かしらチャレンジすることが大切です。そして、思いを自分の中でとどめるよりも、がんばる姿を発信し見てもらうことで、共感してくれる人とのつながったり、取材されるきっかけにもなります。


地方は東京に比べると、コミュニティがまとまっているので、おもしろい人と出会ったら、さらにつながっていく連鎖も多いですよ。


また、長い歴史を持つ商品でも、元からあるものをそのまま守りつづけるだけでなく、時代に合わせていくことが大切です。伝統は大事にしながらも、少しずつ変えていく。お客さまたちが変化に抵抗を感じることなく、喜ばれ支持されつづける、という状態が理想だと考えています。


インタビューを終えて

今回インタビューを担当させて頂いたRina Takumaです。

宇佐美さんとのインタビューでは、人とのつながりをつくるために自分からアクションを起こすことの大切さを学び、どの業界でもPRをする上で必要不可欠なことだと改めて感じました。


「伝統を守りつづけたい」「北九州を元気にしたい」という思いが伝わってきて、その思いに共感した人がどんどんつながり、仲間になっていく連鎖が今後、どのような新たな可能性をうみだしていくのか楽しみです。私自身も、自分の持っているものでどんな価値を提供できるのか考えるきっかけにもなりました。


(取材・執筆:PRライター Rina Takuma / 編集:PRライター 神田 祐佳)


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